妻とふたりで、サバティカルを兼ねて日本に三週間滞在している。初めての大相撲本場所と並んで、ぜひ観ておきたかったのが野球の試合だ。大阪到着の翌日、念願の試合を観に行った。それが今回の旅で最高の夜のひとつになった。
なぜ阪神タイガースか
妻のクリスティーンはデトロイト近郊の出身で、デトロイト・タイガースのファンだ。私はフィリーズを応援している。それはさておき、阪神タイガース戦はどちらにとっても自然な選択だった。しかも阪神とデトロイトのつながりは、名前の偶然ではないとあとで知った。
阪神は1936年の創設にあたり、名称を公募した。選ばれた「タイガース」は、同じ重工業地帯を持つアメリカのデトロイト・タイガースにちなんだものだ。クリスティーンが子どもの頃から応援してきたチームと、今夜観に来たチームは、意図的に同じ名前を持っている。
チケットの手配
viagogo で5月20日の試合のチケットを購入した。ホテルに届けてもらえるとのことで、チェックイン時には部屋に用意されていた。拍子抜けするほどスムーズだった。
事前に読んだ情報でひとつだけ強くすすめられていたのが、ライト側の応援席に座ること。本当の日本式観戦ができるのはあそこだけ、と書いてあった。まったく正解だった。
球場へのアクセスも簡単だ。大阪梅田から阪神線に乗れば15分ほど。電車を降りると、もうタイガースのユニフォームを着たファンに囲まれていた。
甲子園は日本のリグレー・フィールド
甲子園球場は、シカゴのリグレー・フィールドのような存在だ。誰もが敬意を持って語る、歴史ある球場。外壁を這うツタを見れば、その雰囲気が伝わってくる。
予報では雨だったのでポンチョを持参したが、パラついた程度で助かった。屋外観戦には上出来だ。
ひとつ気に入ったグッズがあった。マスコットがフラッグを持った、小さな帽子飾りだ。帽子に取り付けて使う。アメリカにもこういう文化があればいいのに、と思った。
日本野球が素晴らしい理由
気づいたことはいくつもあるが、そのほとんどはスコアボードとは関係ない。
最大のポイントは応援だ。選手ひとりひとりに専用の応援歌があり、ライト席全体がトランペット・太鼓とともに一糸乱れぬ応援を繰り広げる。アメリカの球場では絶対に体験できないエネルギーだ。試合が終わる頃には、私たちも応援歌のほとんどを覚えていた。
これが機能するのは、全体を統括するリーダーがいるからだ。フロントで指揮を取るリーダーがいて、トランペット奏者が各応援歌のメロディーを担う。さらに、隣と前の席にいたコアなファンが全力でチャントをシャウトしていたのも大きかった。あれ以上に効率よく覚える方法はない。
MLBとのルールの違いも興味深かった。
- ピッチクロックなし。 投手が完全にペースをコントロールする。試合のリズムがまったく違う。
- 小さくてグリップしやすいボール。 変化球を投げやすく、投手はより大きな変化量を出せる。
- 外国人選手は1チーム4名まで。 制約があることでリーグの独自性が守られている。気に入った制度だ。
- 投手が打席に立つ。 セ・リーグにはDH制がない。その実例を最高の形で目撃した。相手チームの投手が、私たちの目の前でプロ初ホームランを打ったのだ。
売り子さんについて
もうひとつすぐに気づくのが売り子さんたちだ。売り子(うりこ)と呼ばれる、背中にビール樽を背負って観客席を回る移動販売員だ。
本当に頭が下がる。重い樽やケースを担いで、試合中ずっと階段を上り下りしている。膝当てをしているのにはわけがあって、実際に転んでいる場面を見た。膝当てのおかげでソフトな着地で済んでいた。
キリンとアサヒの生ビール、目の前で作ってくれるハイボール、そしてアサヒのGINONレモンを販売していた。GINONレモンは蒸留前に柑橘の皮を浸け込んだシュガーフリーのジンレモンサワーで、本物のレモンの清々しい風味がある。かなり美味しかった。
食べ物
阪神ファンといえばビーフカレーが定番だ。長年の球場グルメとして有名で、チームストアとAmazonでも販売されているらしい。今回は食べられなかったが、次回は必ず。
メニューはラーメン、唐揚げ、餃子といった定番の日本食と、フライドポテト、スティックドッグ、ポップコーンなどアメリカンなフードが並んでいた。
7回裏の風船
阪神の7回裏はバルーン・タイムだ。全員で黄色い風船を膨らませ、一斉に飛ばす。ちゃんと事前に準備して、ふたり分の風船と専用のポンプを買っておいた。
何千個もの風船が一斉に空へ飛んでいく光景は、まさに圧巻だった。
後ろの席の方からいただいた贈り物
観戦中にファン同士で食べ物を分け合う文化があると読んでいたが、実際に体験することができた。後ろに座っていたご夫婦が、ポールウインナー(プラスチックに包まれた小さなソーセージ)と、みやこ昆布(酢昆布のお菓子)を渡してくださった。なんて温かくて、しかも具体的なジェスチャーなんだと思った。
試合内容:0-7からのサヨナラ
これが私がこれまで観た中で最もスリリングな試合のひとつになった。
序盤に7点を先取されたタイガース。中日ドラゴンズが勢いに乗っていた。しかしそこから試合はひっくり返った。7回に4点、8回にさらに3点。こちらが同点打の動画だ。
そして9回裏、森下翔太がサヨナラホームランを打った。球場全体が爆発した。Redditに動画があるので、その瞬間をぜひ確認してほしい。
私たちは今や日本野球のファンだ
完全にやられた。帰り道、クリスティーンに「NPBを放映しているUSのケーブルチャンネルを探してみようか」と冗談半分で言ったくらいだ。
最後にもうひとつ。試合後に電車で帰っていると、日本人の男性グループから声をかけられた。シカゴ出身と答えると、すぐに「清也!清也!」と盛り上がった。カブスの外野手、鈴木清也のことだ。日本のスポーツ専門チャンネルは深夜に西海岸のMLBゲームを放映していて、とくにドジャースはよく映しているらしい。野球はどこにいても、どちらの方向でも、常に流れているようだ。